パンデミックが浮き彫りにしたラオスの経済・医療構造的課題と変革への展望
ラオスと聞いて、皆様はどのようなイメージをお持ちでしょうか。
豊かな自然、仏教文化、そしてゆったりとした時間の流れ――。
しかし、その一方で、現代のラオスは、パンデミックという未曽有の危機に直面し、経済と医療の両面で深刻な課題を抱えています。
本稿では、根拠となるリサーチデータに基づき、パンデミックがラオスの経済と医療システムに与えた影響、そしてそこから見えてくる構造的な問題点と、今後の変革への展望を紐解いていきます。
1. パンデミックが直撃したラオスの経済:低成長と構造的問題の露呈
Covid-19パンデミックは、ラオスの経済に特に大きな打撃を与えました。
その背景には、観光、貿易、サービス業への依存度の高さがあります。
これらの産業は、国境封鎖や移動制限の影響を直接的に受け、人々の生計を脅かしました。
2020年4月1日には初めての全国的なロックダウンが実施され、同年4月22日には2度目のロックダウンが行われるなど、度重なる制限措置は経済活動の停滞を招きました。
1.1. GDP成長率の鈍化と格差の拡大
パンデミック以前、ラオスのGDP成長率は過去10年間の大半で6〜8%を維持していましたが、2022年には世界銀行の予測でも4.5%に留まると見られており、これはパンデミック前の水準を大きく下回ります。
この経済成長の鈍化は、特にインフォーマルセクターや小規模事業者に壊滅的な影響を与えました。
これらのセクターは、復興のためにさらなる資金を必要としており、経済格差の拡大も懸念されています。
2020年11月時点での税収は37.6%減少し、一方でインフラプロジェクトへの支出などにより、公的債務はGDP比69%に増加しました。
このような状況は、2020年8月のムーディーズやフィッチ・レーティングスによる同国のソブリン信用格付けの引き下げにも繋がりました。
2. 医療システムが抱える構造的課題:パンデミックが浮き彫りにした脆弱性
ラオス政府は、2021年末までに国民の50%にワクチン接種を完了させるという目標を達成しましたが、国内の医療インフラ、特に農村部へのアクセス改善は、依然として大きな課題です。
パンデミックは、ラオスの医療セクターに存在する構造的な問題を浮き彫りにしました。
国民の約80%が農村部に居住し、農業に従事している現状において、医療サービスの提供は地域によって偏りが生じています。
2.1. 保険制度の限界と国際支援への依存
ラオス政府は、国民皆保険制度の達成を2025年までに目指していますが、現行の健康保険制度は、国民全体のわずか20%しかカバーできていません。
公務員向けのState Authority for Social Security (SASS)、国営・民間企業の従業員向けのSocial Security Office (SSO)、インフォーマルセクター従事者向けのCommunity-based Health Insurance (CBHI)、そして貧困層向けのHealth Equity Funds (HEF)など、所得層別に異なるプログラムが存在します。
しかし、これらの制度の恩恵は一部に限られており、多くの国民は十分な医療サービスを受けられていません。
このため、ラオスはワクチン、医療従事者のトレーニング、母子保健の強化といった分野で、国際的な支援に大きく依存している状況です。
2.2. 医療サービスへのアクセスと質の格差
地方レベルでの医療提供においては、資格のある人材の不足、インフラの不備、そして安価な医療機器や医薬品の供給不足といった問題が頻繁に発生しています。
結果として、より高額で質の高い医療を求める富裕層は、タイなど近隣諸国へ医療ツーリズムに出向く傾向があります。
3. 変革への兆し:デジタル化と経済・医療分野における新たな機会
パンデミックは、ラオスの経済および教育分野におけるデジタル化の機会を創出しました。
これは、復興努力をさらに推進し、ラオスにとってより持続的な経済成長を生み出す可能性を秘めています。
デジタル化は、遠隔医療の推進や、地理的な制約を超えた教育機会の提供にも寄与することが期待されます。
3.1. 小規模ビジネス支援と長期的な医療インフラへの投資
ラオス政府が「ゼロ Covid-19」政策から「Covid-19との共生」へと移行する中で、米国をはじめとするドナー国は、小規模ビジネスへの支援や、医療セクターにおける長期的なレジリエンス(強靭性)への投資を通じて、ラオスの取り組みを支援することが可能となっています。
これにより、経済の回復を後押しし、将来的な健康危機への備えを強化することが期待されます。
ラオスの経済と医療システムは、パンデミックによってその脆弱性が露呈しましたが、同時に、デジタル化の推進や国際的な支援といった新たな変革の機会も生まれています。
これらの機会を捉え、構造的な課題を克服していくことが、ラオスが持続的な発展を遂げるための鍵となるでしょう。