
繁栄の礎を築く
ラオスの未来は、子どもたちの最初の8年間に投資できるかにかかっている
岐路に立つ国家
ラオスは今、深刻な「人的資本の危機」に直面しています。経済成長の果実が、国民のスキル不足によって損なわれようとしています。このレポートは、その根本原因を探り、最も効果的な解決策を提示します。
分析の前提は明確です。
人間の潜在能力は普遍的であり、国籍や遺伝では決まりません。課題の原因は環境にあり、したがって、的を絞った政策によって解決可能なのです。
診断:崩壊しつつある教育システム
ラオスの教育は、脆弱なスタート、大量の中途退学、そして「学習なき学校教育」という3つの危機に苛まれています。以下のデータは、その深刻な実態を示しています。
穴の開いたパイプライン:学年と共に消える子どもたち
下のボタンで表示を切り替え、集団間の深刻な格差を確認してください。
質の危機:学校にいても学べていない
23%
小学5年生の読解力
最低習熟度到達率
16%
小学5年生の作文力
最低習熟度到達率
1%
小学5年生の数学力
最低習熟度到達率
根本原因:なぜ学習危機は起きるのか
この危機は、学校内だけの問題ではありません。栄養不良という生物学的な制約と、貧困という社会経済的な障壁が、子どもたちから学ぶ機会を奪っています。
🧠栄養不良の認知的コスト
5歳未満の子どもの3分の1が慢性的な栄養不良(発育阻害)にあり、脳の発達に恒久的なダメージを受けています。これは教育の失敗の直接的な原因です。
💰学習への経済的障壁
高いインフレと経済不安が家計を圧迫し、子どもを学校に通わせる代わりに労働力とせざるを得ない状況を生んでいます。
- → 政府の教育支出はGDPのわずか1.2%。地域平均や国内目標を大きく下回ります。
- → 公的支援の不足が、教材費などの負担を家庭に転嫁させています。
- → 経済的困窮が、近年の就学率低下と中途退学率上昇の主な理由となっています。
帰結:経済変革を阻むスキルギャップ
教育の失敗は、労働市場での深刻なスキル不足に直結します。これは、ラオスの経済発展における最大のボトルネックです。
“雇用主は一貫して『不十分に教育された労働力』を事業を行う上での最大の制約として挙げている。”
基礎教育の危機
(読み書き・計算能力の欠如)
労働市場のスキルギャップ
(基礎的・専門的スキルの不足)
経済成長の停滞
(産業の多角化の失敗)
問題の根源は、職業訓練(TVET)制度そのものではありません。TVETが機能しないのは、参加する若者たちが、高度な技術を学ぶために不可欠な基礎的認知スキルを、その前の教育段階で習得できていないからです。
戦略的転換点:0歳から8歳への投資
分析が示す結論は一つです。最も高いリターンが期待できる投資対象は幼少期(0~8歳)です。これは、症状を治療するのではなく、病気の根本原因を根絶する「予防的」戦略です。
第1の柱:質の高い就学前教育の普遍化 (3-5歳)
すべての子ども、特に不利な立場にある子どもが、学ぶ準備ができた状態で小学校に入れるようにします。
第2の柱:初等教育初期の抜本的改革 (1-3年生)
3年生修了までに、すべての生徒が基礎的な読み書き・計算能力を完全に習得することに焦点を当てます。
第3の柱:栄養を教育の必須要件に (0-8歳)
栄養を教育の成功に不可欠な要素と位置づけ、栄養不良がもたらす認知能力への悪影響を根絶します。
繁栄の礎:ラオスの社会経済の未来に向けた幼少期教育の優先
目次
1. はじめに:岐路に立つ国家
ラオス人民民主共和国(以下、ラオス)は、若年人口が多く、戦略的な地理的条件に恵まれ、計り知れない潜在能力を秘めた国である。しかし、深刻な人的資本の不足という大きな逆風に直面している。
過去数十年にわたり貧困削減と経済成長で大きな進歩を遂げてきたものの、近年の経済不安、社会サービスへの投資の減少、そして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の長期的な影響により、これまでの成果が覆される危機にあります。
この状況は「人的資本の危機」とも言うべき事態を生み出し、深刻なスキルギャップとして現れ、経済の多角化と将来の成長を制約しています。
ラオスは現在、後発開発途上国(LDC)からの卒業を目指す重要な岐路に立っており、人々への戦略的投資が持続可能な繁栄への道を切り開くことができるかどうかが問われています。
本報告書の目的は、この悪循環を断ち切るために、最も戦略的で影響力の大きい教育投資の対象となる年齢層を特定することです。
本分析は、「人間の潜在能力は普遍的であり、遺伝や国籍によって決定されるものではない」という科学的コンセンサスを明確な前提としています。
この前提に立つことで、現在観測されている成果の格差は、政策によって対処可能かつ対処すべき環境要因の産物であると捉え直すことができます。つまり、この課題は解決不可能な問題ではなく、戦略的な資源配分の問題となるのです。
本報告書は、まずこの科学的基盤を確立し、次にラオスの教育システムが直面する深刻な危機をデータに基づいて診断します。
そして、その根本原因を分析し、労働市場におけるスキルギャップとの関連性を明らかにします。
最終的に、これらの証拠を統合し、なぜ幼少期への投資が最も高いリターンをもたらすのかを論証し、具体的な政策提言を行います。
2. 普遍的な潜在能力:国家の人的資本を決定するのは遺伝ではなく環境
本報告書の分析の根幹をなすのは、揺るぎない科学的基盤です。それは、集団間の認知能力の差(例:国別のIQスコア)が遺伝的要因に根差すという考え方が、疑似科学的で歴史的に有害な誤りであるという点です。
IQは測定可能な特性であり、特定の集団内においては遺伝的要素が一定の役割を果たすことが示されています。しかし、科学界の広範なコンセンサスは、人種や国民といった集団「間」の平均的なIQの差を遺伝子が説明するものではない、という点で一致しています。そもそも「人種」という概念自体が、明確な生物学的根拠を持たない社会的構築物であるのです。
この点を理解する上で重要なのが「遺伝率」という概念です。遺伝率は、特定の環境下における特性の「ばらつき」のうち、遺伝子に起因する割合を示すものであり、特性そのものが遺伝子によって決定される割合ではありません。
例えば、身長は遺伝率が高い特性ですが、栄養状態という環境要因の劇的な改善により、多くの国で平均身長は著しく伸びてきました。この事実は、遺伝率が高いとされる特性でさえ、環境によって大きく変化しうることを示しています。
この科学的コンセンサスが持つ政策的含意は極めて重要です。もし集団間の成果の差が遺伝子に起因しないのであれば、その原因は環境以外にあり得ません。
ここで言う環境とは、栄養、医療、衛生、言語環境、学校教育の質、社会経済的安定性など、政策的に介入可能な要因の総体です。
したがって、ラオスにおける教育や経済指標の低さは、国民の生来的な能力の反映ではなく、環境的な欠陥がもたらした直接的かつ測定可能な結果に他なりません。
この認識は、問題を不可避なものから、的を絞った政策介入によって解決可能な課題へと転換させます。それは、諦めや現状維持の議論を退け、現状に対する道徳的・経済的な行動の責務を生み出すのです。
3. 学習危機の解剖:ラオス人民民主共和国における教育の現状
ラオスの教育システムをデータに基づいて診断すると、子どもたちが成功の機会を得るずっと以前から、その機会を奪っている構造的な問題が明らかになります。この問題は、脆弱な就学前教育、中途退学者を大量に生み出す非効率な教育課程、そして学校に通っていても学習が成立していないという質の欠如、という三つの相互に関連した危機として現れています。
3.1 脆弱なスタート:就学前教育(ECE)の危機
ラオスの教育システムにおける最初の、そして最も深刻な失敗は、就学前教育(ECE)の段階で起きています。最新のデータによれば、3歳から4歳の子どものECEへの純就学率は全国でわずか27%に過ぎません。
この低い平均値の背後には、壊滅的な格差が隠されています。最貧困層の家庭では就学率が9%であるのに対し、最富裕層では68%に達します。また、農村部では17%ですが、都市部では53%と、地域間格差も著しいです。
特にラオ語を母語としない少数民族の子どもたちの多くは、小学校入学時点で授業言語を話せず、何の準備もないまま教育課程に入ることになります。
遠隔地ではECE施設や訓練を受けた教員が絶対的に不足しており、これがアクセスの大きな障壁となっています。
この質の高いECEへのアクセスの欠如は、子どもたちが小学校1年生で成功するために必要な認知的、社会的、言語的スキルを持たないまま就学するという「就学準備の不足」を生み出しています。これは、教育システム全体に連鎖する失敗の最初のドミノです。
3.2 大規模な脱落:穴の開いた教育パイプライン
ラオスの教育システムは、初等教育段階では高い就学率を達成しているように見えますが、その後、まるで巨大な穴が開いたパイプラインのように、各段階で生徒を大量に失っていきます。
初等教育の純就学率は約86%と比較的高いものの、中等教育前期では62%に、後期に至ってはわずか37%にまで急落します。修了率も同様の傾向を示し、初等教育の88%に対し、中等教育前期は56%、後期は37%と激減します。
さらに憂慮すべきことに、この傾向は悪化しており、最近の3年間で初等から高等教育までのすべてのレベルで就学者数が減少し続けています。
学校に通っていない子どもの割合も驚くほど高く、中等教育前期年齢の子どもの10人中3人、後期年齢の子どもの10人中6人が学校に通っていません。
この状況を以下の表1に示します。このデータは、教育システムが特定の集団に対して特に機能不全に陥っていることを明確に示しています。富裕層で都市部に住むラオ・タイ語族の子どもと、貧困層で農村部に住むモン・クメール語族の子どもの教育経歴は、全く異なるものとなっているのです。
表1:ラオスの教育パイプライン:教育レベルと主要な人口統計グループ別の純就学率および修了率(2023年)
教育レベル | 指標 | 全国平均 | 都市部/農村部 | 最富裕層/最貧困層 | ラオ・タイ語族/モン・クメール語族 |
---|---|---|---|---|---|
就学前教育 (3-4歳) | 純就学率 | 27% | 53% / 17% | 67% / 9% | 38% / 13% |
初等教育 | 純就学率 | 86% | 90% / 85% | 95% / 74% | 90% / 74% |
修了率 | 88% | 96% / 84% | 98% / 69% | 94% / 76% | |
中等教育(前期) | 純就学率 | 62% | 81% / 54% | 90% / 33% | 71% / 46% |
修了率 | 56% | 79% / 48% | 89% / 28% | 69% / 40% | |
中等教育(後期) | 純就学率 | 37% | 61% / 27% | 72% / 7% | 51% / 18% |
修了率 | 37% | 67% / 26% | 81% / 10% | 52% / - (データ僅少) |
出典:2023年ラオス社会指標調査(MICS)のスナップショットに基づく。
3.3 質の欠如:学校教育はあっても学習はない
この教育危機の中で最も衝撃的な事実は、学校に「とどまっている」子どもたちでさえ、学習成果が壊滅的に低いことです。これは「学習なき学校教育」という深刻な問題を示しています。
2023年の調査では、小学5年生のうち、読解力で最低習熟度に達したのはわずか23%、作文で16%、そして数学に至っては驚くべきことにわずか1%でした。
別のデータでは、小学2・3年生の子どもの81.4%が基礎的な読解スキルを、77.4%が基礎的な計算スキルを習得していないことが示されています。さらに、小学2年生の時点で、ラオ語を母語としない生徒の54%が、単語を一つも読むことができませんでした。
これらのデータが示すのは、単に学校に通う年数だけでは人的資本が形成されないという厳しい現実です。
システムは、子どもたちが最も基本的なスキルを習得したかどうかを確認することなく、ただ学年を通過させているに過ぎません。
この砂上の楼閣のような教育は、その後のすべての中等教育や職業訓練の効果を著しく損ないます。そして、これが労働市場で雇用主が直面する「基礎的スキル」の欠如という問題の直接的な原因となっているのです。
これら三つの問題、すなわち「脆弱なスタート」「穴の開いたパイプライン」「質の欠如」は、それぞれ独立した問題ではなく、相互に強化しあう悪循環を形成しています。
質の高いECEへのアクセスの欠如が、初等教育初期における基礎学力の定着を妨げます。これが学習の遅れや留年、早期の中途退学を引き起こし、「穴の開いたパイプライン」という現象を生み出すのです。
したがって、このパイプラインの穴を塞ぐには、問題の根源、すなわち幼少期の基礎学習の失敗に対処する以外に方法はありません。
4. 教育の失敗を招く複合的要因
ラオスの学習危機は、学校内だけの問題ではありません。その根本には、栄養不良という生物学的な制約と、貧困という社会経済的な障壁が複雑に絡み合っています。これらの要因は相互に作用し、教育の機会を奪う強力な悪循環を生み出しているのです。
4.1 栄養不良の認知的コスト:脳発達への課税
ラオスはアジアで最も栄養不良率が高い国の一つです。5歳未満の子どもの3分の1が発育阻害(スタンティング)に陥っており、これは慢性的な栄養不良が脳の発達に取り返しのつかないダメージを与えたことを示す兆候です。
これは単なる健康問題ではなく、教育の失敗を招く主要な要因です。発育阻害は、学校での留年や中途退学のリスクを高めることと直接的に関連しています。2022年には、全留年者の約14%、全中途退学者の約15%が、発育阻害に関連していたと推定されています。
発育阻害に陥った子どもは、教室に入る前から認知的な潜在能力を恒久的に損なわれています。栄養問題に同時に取り組むことなく学校に投資することは、穴の開いたバケツに水を注ぐようなものです。特に生後1000日間の栄養は、教育の成果を左右する極めて重要な「教育的投資」と見なされなければなりません。
表2:ラオスにおける栄養不良がもたらす教育的・経済的コスト(2022年)
教育レベル | 指標 | 総数 | うち発育阻害に起因する数(割合) |
---|---|---|---|
初等教育 | 中途退学者数 | 36,620人 | 4,903人 (13.4%) |
留年者数 | 17,232人 | 2,378人 (13.8%) | |
中等教育(前期) | 中途退学者数 | 43,843人 | 6,597人 (15.0%) |
留年者数 | 2,890人 | - (データ僅少) | |
中等教育(後期) | 中途退学者数 | 17,680人 | 2,881人 (16.3%) |
留年者数 | 894人 | - (データ僅少) | |
合計 | 中途退学者数 | 98,143人 | 14,381人 (14.7%) |
留年者数 | 21,016人 | 3,025人 (14.4%) |
出典:NIPN報告書に基づく。この分析は、発育阻害がもたらす生涯所得の損失という形で、莫大な経済的コストも示唆している。
4.2 学習への経済的障壁:貧困が意欲を打ち砕く時
教育への障壁は、経済的な要因によってさらに深刻化しています。高いインフレと経済不安は、家計に教育費の削減を強いています。
政府の教育支出はGDPのわずか1.2%と低水準にとどまり、地域平均や国内目標を大きく下回っています。この公的支援の不足は、教材費やその他の「非賃金的経費」の負担を家庭に転嫁させています。
子どもが成長するにつれて、特に貧しい農村部の家庭では、学校に通わせる代わりに労働力として家計に貢献させることの機会費用が増大し、中途退学の大きな要因となります。実際に、近年の就学率の低下と中途退学率の上昇の主な理由として、経済的困窮が挙げられています。
多くの家庭にとって、子どもを学校から退学させるという決断は、教育の価値を軽視しているからではなく、生き残るための厳しい経済的計算の結果なのです。
これらの要因は、破壊的な「貧困の罠」を形成します。貧困に起因する栄養不良が子どもの認知能力を損ない、学業不振につながります。
この低い学習成果は、教育を継続することの価値を低く見せ、一方で貧困による経済的圧力は、学校に通い続けることの機会費用を増大させます。
その結果、子どもは中途退学し、低スキル労働に従事せざるを得なくなり、次世代へと貧困の連鎖が引き継がれていくのです。この罠を断ち切るには、栄養、学校の質、そして教育の直接的コストという、すべての側面に同時に介入する包括的なアプローチが不可欠です。
5. 帰結:経済変革を阻むスキルギャップ
上流での人的資本開発の失敗は、下流の労働市場において深刻な帰結をもたらします。ラオスの学習危機は、国の発展目標達成における最大のボトルネックであるスキル危機を直接的に生み出しているのです。
複数の調査において、雇用主は一貫して「不十分に教育された労働力」を事業を行う上での最大の制約として挙げています。
ここで指摘されている不足は、高度な専門技術だけではありません。むしろ、機能的な読み書き能力、計算能力、批判的思考力、チームワーク、問題解決能力といった、より根本的な「基礎的スキル」の欠如が深刻な問題となっているのです。
ラオスの国家経済戦略は、天然資源の採掘や低スキル農業から、物流、情報通信技術(ICT)、観光といった高付加価値のサービス業や工業へと経済構造を多角化することに依存しています。しかし、現在の教育システムは、この変革に対応できる労働力を育成できていません。
その結果、若者の失業や不完全雇用が広がる一方で、企業は深刻なスキル不足に直面するというパラドックスが生じています。
このスキルギャップは、ラオスが目指すLDCからの円滑な卒業に対して、実存的な脅威をもたらします。より生産的で熟練した労働力がなければ、優遇的な市場アクセスを失った後に世界市場で競争することは困難になるでしょう。これは経済成長を停滞させ、国を中所得国の罠に陥れる危険性をはらんでいます。
この問題の根源は、職業技術教育訓練(TVET)制度そのものにあるのではありません。TVETプログラムが苦戦しているのは、そのプログラムに参加する生徒、すなわち初等・中等教育の卒業生たちが、高度な技術を学ぶために不可欠な基礎的認知スキルを欠いているからです。
これは、砂の土台の上に高層ビルを建てようとするようなものです。TVETへの投資を増やすだけでは問題は解決しません。
スキルギャップという問題の根本原因は、基礎教育システムが最も基本的なスキルを習得させられていないことにあります。したがって、スキルギャップを埋めるための真の解決策は、小学校1年生から始まるのです。
6. 戦略的転換点:0歳から8歳への投資対効果の最大化
これまでの分析は、一つの強力な結論へと収斂します。ラオスの未来にとって、最も戦略的で、最も高いリターンが期待できる単一の投資対象は、幼少期(0歳から8歳)です。この年齢層は、脳が最も急速に発達する生後から5歳までの「決定的な時期」と、学問的基礎スキルを習得する小学校低学年(1年生から3年生)を包含します。
この年齢層への投資を最優先すべき理由は、以下の四点に集約されます。
第一に、対症療法ではなく根本原因への対処です。中等教育やTVETといった後の段階への投資は、すでに深く根付いた問題を修正しようとする、高コストな「治療的」戦略です。対照的に、幼少期への投資は、栄養不良、就学準備の不足、基礎スキルの習得失敗といった、教育システム全体の失敗の連鎖を引き起こす根本原因に対処する「予防的」戦略です。
第二に、人的資本の経済学が示す高いリターンです。世界銀行の人的資本プロジェクトをはじめとする世界的な研究は、幼少期の栄養と教育への投資が、長期的に最も高い経済的リターンを生むことを一貫して示しています。現在ラオスで生まれた子どもは、完全な健康と教育を享受した場合と比較して、将来の生産性がわずか46%にとどまると予測されています。この莫大な経済的損失は、乳幼児期から始まっているのです。
第三に、将来のすべての学習の土台作りです。幼少期に強固な基盤を築くことは、その後の教育投資のあらゆる一ドルをより効果的にします。栄養状態が良く、就学準備が整い、基礎的な読み書き計算能力を習得した子どもは、学校に留まり、中等教育を修了し、職業訓練や高等教育で成功する可能性がはるかに高いのです。これは教育予算全体の効率性を劇的に改善します。
第四に、格差是正の最優先課題です。教育へのアクセスと成果における最も深刻な格差は、幼少期に始まります。この段階で、普遍的で質の高い介入を行うことは、富裕層と貧困層、都市部と農村部、そして異なる民族間の巨大な格差を是正し、誰もが恩恵を受けられる包摂的な成長を確保するための最も効果的な手段です。
この優先順位の転換は、単なる政策の変更ではなく、開発戦略における根本的なパラダイムシフトを意味します。
それは、学校の建設といった目に見える「物理的インフラ」への投資から、子どもの脳の認知的・生理的発達という「見えざるインフラ」への投資へと焦点を移すことです。
後者はより複雑で、成果が現れるまでに時間がかかりますが、21世紀の経済が必要とする人的資本基盤を構築するための、唯一にして最も強力な手段です。それは、病気の症状を治療することから、病気そのものを根治することへの移行なのです。
7. 実行可能な行動計画:基礎学習のための三本柱戦略
戦略的な結論を具体的な政策の枠組みへと転換するため、以下の三本柱からなる行動計画を提案します。この計画は、0歳から8歳の子どもたちの就学準備と基礎学習の向上という統一された目標の下、省庁の垣根を越えた「政府一体」のアプローチを必要とします。
第1の柱:質の高い就学前教育(3~5歳)の普遍化
目的: すべての子ども、特に最も不利な立場にある子どもが、学ぶ準備ができた状態で小学校1年生になれるようにする。
提言:
- ユニセフの「コミュニティベースの就学準備プログラム」のような実証済みモデルを活用し、遠隔地、農村部、非ラオ語話者コミュニティにおいて、コミュニティや家庭を基盤とするECEプログラムを積極的に拡大する。
- ECEを保健、栄養、保護者向け教育サービスと統合し、幼い子どもとその養育者のための包括的な支援システムを構築する。
- 公私を問わず、すべてのECE提供者に対する国の品質基準を策定・施行し、ECEファシリテーターの訓練と支援に投資する。
第2の柱:初等教育初期(1~3年生)の抜本的改革
目的: 初等教育システムの焦点を、単なる就学から、3年生修了までにすべての生徒が基礎的な読み書き計算能力を完全に習得することへと転換する。
提言:
- 基礎スキルに明確に焦点を当てた、体系的な教授法を導入し、進捗を追跡するための明確なベンチマークと評価方法を確立する。
- 小学校低学年教員の養成課程および現職者研修に重点的に投資し、特に多言語環境において基礎スキルを効果的に教えるための能力を育成する。
- 基礎スキルの習得のために設計された、文化的・言語的に適切な教材を十分に学校に提供する。
第3の柱:栄養を教育の必須要件とする(0~8歳)
目的: 栄養を教育の成功に不可欠な要素と位置づけることで、栄養不良がもたらす認知能力への悪影響を根絶する。
提言:
- 「コンバージェンス・アプローチ」を拡大し、幼い子どものいるすべての家庭が、保健と栄養に関する必須サービスの最小限のパッケージを受けられるようにする。
- 特に食料不安が深刻な地域において、国の学校給食プログラムを拡大・維持する。これは栄養改善と就学率・在学率向上の二重の利益をもたらす。
- 幼少期の栄養と、子どもの学習能力および人生における成功との間の切っても切れない関係について、保護者やコミュニティの意識を高めるための全国的なキャンペーンを開始する。
これらの戦略の成功は、教育省、保健省、計画投資省、財務省といった省庁間の縦割りを打破し、共通の目標と予算の下で協調して取り組むことにかかっています。
ラオス政府と開発パートナーが開催した「人的資本サミット」は、このような政府一体型アプローチの重要性が認識されつつあることを示す前向きな兆候です。この動きを制度化し、永続的な協力体制を築くことが、本計画の実行可能性を保証する鍵となります。
8. 結論:ラオスの未来を人的潜在能力の土台の上に築く
本報告書は、一貫した証拠に基づき、ラオスの発展課題が人的資本の危機に根差しており、その危機は人生の最も初期の段階から始まる一連の失敗の連鎖によって引き起こされていることを明らかにしました。人間の潜在能力が普遍的であるという科学的真理は、これらの失敗が環境に起因するものであり、したがって解決可能であることを示しています。
政策立案者に突きつけられている選択は、異なる教育レベル間の選択ではありません。それは、症状を治療する(後の段階に投資する)か、病気を根治する(0歳から8歳の年齢層に投資する)かの選択です。
本報告書の分析は、基礎的な幼少期に優先的に投資することが、最も高いリターン、最大の公平性、そして将来必要とされる熟練労働力を育成するための唯一の持続可能な道筋を提供することを示しています。
ラオス政府およびその開発パートナーに対し、最も若い世代の市民に対して、戦略的かつ長期的で、勇気あるコミットメントを行うことを強く要請します。幼少期の脳の発達と基礎学習という「見えざるインフラ」への投資こそが、ラオスが国家ビジョンを達成し、国民の潜在能力を最大限に引き出し、そして繁栄し、強靭で、包摂的な未来を確保するために行うことができる、最も重要な投資です。
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